滞納処分対策全国会議事務局長・弁護士 佐  藤  靖  祥

1 滞納処分対策全国会議の発足

強引な滞納処分を行う自治体も出現するなど、住民の生存権が脅かされる事態があり、 かかる事態に対応するべく、2017年4月(平成29年)、角谷啓一税理士を代表に迎え、「滞納処分対策全国会議」(以下、本稿においては「全国会議」といいます)を結成し、行き過ぎた滞納処分に歯止めをかける活動が開始しました。

2 2018年の活動

(1) 前橋市シンポジウムと申入

全国会議では、2018年8月27日、年金や児童手当などの、(一部)差押禁止債権が、口座に振り込まれた直後にその口座の残金を差押えるといった取立や、分割納付の合意が成立しているにもかかわらず差押をするなどの問答無用の被害事案が後を絶たない前橋市でのシンポジウムを開きました。シンポジウムでは、前橋市の資産調査の方法や、口座に入るのを待ち構えて差押をするという方法は、明らかに調査権限と自力執行権の濫用であるとの結論に至りました。
そこで、全国会議では、①滞納者の個別具体的な生活状況を把握し、安易な差押は控えること、②生命保険や預貯金につき、当てずっぽうの網羅的調査を中止すること、③自力執行にあたっては高いモラルをもって臨むこと、などを内容とする要望書を採択し、翌28日には前橋市に申入書を持参し、その姿勢の是正を求めました。

(2) 2018年12日野洲市調査

次に、全国会議では、次に、「ようこそ滞納いただきました」で有名な、滋賀県野洲市の状況を調査しました。前橋市のような強硬的な取立を行うのとは真逆の対応に見えることから、全国会議では、「北風と太陽」の寓話になぞらえ、前橋市を北風、野洲市を太陽と位置づけ、そのような考えで徴税率の維持を図れるのかを確認しに行きました。
野洲市においては、税滞納を一つの生活困窮の徴表として捉え、生活を改善するサポートを行い、納税のできる市民に育て上げるという活動が、庁内連携によりなされていました。全国会議では、このような徴税事務こそがあるべき徴税事務であるものとの認識を深めました。

(3) さいたま市集会と申入

一方、全国会議に寄せられた情報では、さいたま市では、市職員が、税滞納者に対し、ヤミ金から借りてでも納税しろなどと迫り、自殺者まで出ているということでしたので、驚いて状況を確認してみました。すると、さいたま市の債権回収課に寄せられた市民からの苦情につき、埼玉県の市民団体が情報公開により取得した資料によると、「債権回収課にやくざみたいな人がいます」「ヤクザのような取り立て」「口のきき方を教育して下さい」などから始まり、挙げ句の果てには、「自己破産して借金ができない?闇金なら貸してくれる。闇金なら返さなくていいんだから闇金から借りて一括納付するように。」と要求されたりした案件があることが判明しました。また、支援団体から聞き取りを行ったところ、さいたま市では税滞納が引き金となって自殺をした方が、少なくとも3名はいるということも把握するに至りました。
そこで、全国会議では、平成30年7月8日にさいたま市での集会を開き、翌9日、さいたま市の債権回収課に対し、節度を持った滞納処分を求める申入れを行いました。
さいたま市は、苦情件数は減少傾向にあることなどを説明していましたが、全国会議からは、言語道断の対応なのだから0件でなければならないことなどを訴えました。

3 2019年の活動

(1) 多賀城市調査

1年1月8日、宮城県地方税滞納整理機構が、税滞納者の口座に給料が入金された直後に、口座残高全額の差押をしたという案件につき、仙台地方裁判所に国家賠償請求訴訟を提起しました。
これに関する一連の報道の中で、地元紙に、宮城県では、多数の市町村では滞納整理機構による強引な徴税を行う一方で、滞納整理機構に加入していない多賀城市では、生活困窮者を支援する民間団体のスタッフが常駐し、税滞納者に対しては納税できる市民に育て上げるという支援が行われていることが報道されました。
そこで、全国会議では、4月11日、具体的にどのような仕組みになっているのか、多賀城市に確認をしに行きました。参加者は、地元社保協を筆頭に、多賀城市で法律事務所を開設している弁護士などであり、税滞納者を支援する関係者の関心の高さがうかがえました。
多賀城市によると、生活困窮者自立支援法に基づいた支援として、実績のあるパーソナルサポートセンターに外部委託をして、多賀城市役所内にて常駐のスタッフを置くこととしたそうです。庁内か庁外かについては議論が分かれたそうですが、ワンストップサービスの提供の観点から、庁内に常駐をしてもらうこととしたそうです。
この制度の利点については、生活困窮者の支援といっても、異動のある自治体職員では十分なノウハウがないところ、専門のスタッフが生活困窮者に寄り添って、一つ一つの問題を解決していくこととなるので、各部署は相談対応ではなく、専門スタッフがとりまとめた情報をベースに対応をしていくことができることとなり、行政が円滑に進んで行っているとのことでした。自治体職員にも、得手不得手があることを考えると、むしろ、このような専門スタッフが相談の受け皿になるというのは、行政職員の負担軽減にもつながることがよく分かりました。
また、滞納税金がある場合の処理について確認をしてみると、専門スタッフが生活状況を聞き取っている内に、滞納税金があることが判明した場合には、専門スタッフが丁寧に家計状況を聴取して、収納課に同行して納税方法について協議をするそうです。このときに、収納課は、専門スタッフが聞き取った生活状況を尊重して、可能な限りでの納付をすることに応じているとのことでした。
多賀城市の取り組みは、宮城県地方税滞納整理機構のような強引な取立ではなく、納税できる市民を育成するという意味で、野洲市に親和性がありました。
ただし、市役所に相談に来なければ支援が開始しないこと、滞納税金を取り扱う収納課から支援につなげることは、地方税法22条との関係で難しいこと、予算の関係で専門スタッフが3名しか確保できず、専門スタッフの負担が過重になっていること、などの問題があり、現場でも万事がうまく進んでいるわけではないようでした。
しかし、全国会議としては、生活困窮者自立支援法の具体化として、極めて参考になる取り組みであるものとの認識を持ちました。

(2) 税金滞納処分対策茨城会議との共同シンポジウム

茨城県においては、一部事務組合である茨城租税債権管理機構が、強圧的な取立を行っているということで、2018年12月16日、税金滞納処分対策茨城会議が結成されました。茨城県は、機構を設立して滞納処分を実効化するという取り組みを、全国で初めて実施した県でしたので、全国会議としては、問題事案を取り上げ、機構に対して改善の申し入れを行おうと思いました。
そこで、令和元年6月2日午後2時から、水戸市内にてシンポジウムを開催しました。参加者は、地元関係者、地方議員などを筆頭に、55名となりました。
現地からの開会の挨拶に始まり、茨城租税債権管理機構の違法取立の実情について、地元議員から報告がありました。報告された内容は、税滞納者を雇用していた新聞店主の営業所に、機構の職員ら総勢5名が押しかけ、4時間ほど粘られ、何らかの書面に署名をさせられたという事案でした。その後、新聞店主は機構に対し滞納税金の支払をさせられたという報告でした。
この新聞店主に対しては、地元議員2名が中心となってインタビューを行った様子が、映像として放映されました。新聞店主は、書面の内容についてはよく分からなかったけれども、帰ってくれるならよいと思って署名をしたものと述べていました。
次いで、特別講演として、野洲市の納税推進課の牧利昌氏から、「野洲市における庁内連携と納税推進課の役割」についてお話をいただきました。
牧氏によれば、同意書をとることにより、地方税法22条の問題を解消し、庁内連携にて、生活困窮者の自立を促しているとの報告がなされ、具体的な解決事例等が報告されました。一方で、野洲市においても、必ずしも一枚岩というわけではなく、支援をすべきとの判断をする部署と、市営住宅費の滞納に基づく明渡をすべきとの判断をする部署とが対立することもあるなど、現場での悩みなども報告されました。
いずれにしても、税滞納者から無理矢理取立をすることに対する、アンチテーゼとしての極めて衝撃的な報告でした。
また、全国会議としての活動報告においては、平成31年4月10日に、衆議院財務金融委員会で滞納処分問題について質疑をした、日本共産党の宮本徹議員の秘書であり、全国会議の会員でもある村髙芳樹氏からの報告がなされました。この質疑では、口座に入金されるのを待ち構えて、差押を行うことは不適切であるとの答弁が、国税庁及び総務省からなされておりますので、ご参考にしていただければと思います。
引き続いて、会場からの発言を受け付けました。会場からは、機構の特定の職員の態度が横柄であること、知識を持った民商や農民連などが介入すると解決はできるが、介入がなければ強引な取立が行われていることなど、機構の問題点が明らかにされました。
定刻である17時を15分程度超過して、シンポジウムは終わりました。

(3) 茨城租税債権管理機構との面会の不達成と県税務課との面会

元々の予定としては、翌6月3日に、機構に対し改善の申入れをするところでしたが、機構は、「これまでも応じていない」という理由で、面会を拒絶しました。これに対しては、全国会議からも地方議員からも要請を行ったのですが、実現はしませんでした。
そこで、代替的に県の税務課との懇談を行いました。当会議の役員及び地元議員や弁護士、商工団体など10名強で実施しました。
県の税務課では、県税である県民税の徴収を行いますが、実際は、県内各市町村に徴収事務を委託していることとなります。したがいまして、市町村が県民税を含めて取立をしていることとなり、その一部につき機構が取立を行っていることとなります。そうだとすれば、県民税の回収において、県民が過酷な状況に追いやられていることは問題となるはずです。
そこで、機構と県との関係を冒頭に確認したところ、県は、「機構は一部事務組合であり県が監督しうる立場ではない」との回答をしました。しかし、県は、機構に年間1700万円の資金を提供しています。資金を提供しているのに何も監督できないことなどあり得るのかと尋ねると、各市町村に委託している県税の回収にも寄与しているので資金は拠出しているが、機構に口を出す立場ではない、との回答を繰り返しました。
しかし、県知事は機構の設置について認可をしており、県は機構に年間1700万円もの資金を拠出し、機構に数名の職員を継続的に派遣しているのだから、全く監督権限がないはずがないのではないか、と確認をしても、監督しうる立場にはないとの回答は変わりませんでした。
そこで、全国会議からは、県税の取立を委託した市町村において、機構を通じた違法な取立がなされていても県は無関係なのかと確認したところ、明確に否定はなされませんでした。
以上から、機構の問題は、茨城県の無関心も大いに寄与しているものとの認識を深め、懇談を終えました。 機構が面談に応じない以上、今後は県知事等、別の角度から機構の取立の改善を求めていく必要があるものと痛感しました。