滞納整理機構の概要

地方自治体は、税滞納者への徴収を強化しようとしても、行政職員の人事異動により、徴収職員を固定化することができないことに加えて、住民数が少ない自治体の場合には、徴収職員と税滞納者が何らかの人的関係があることが多いので、積極的な滞納処分を行えないといった実情がありました。

これを打開し、税負担の不公平性を払拭するための方策として、複数の地方自治体が集まり、徴税技術を共有し、人事異動があっても徴税技術を引き継いでいくという取り組みが行われるようになりました。一部事務務組合(地方自治法284条2項)や、広域連合(同条3項)などを根拠とするものもあれば、法人格を持たない任意組織として設立されることもあります。このように、地域住民との人的しがらみのない者による組織は、滞納税金対策への一石を投じるものとして、各地に地方税滞納整理機構が設立されるようになりました。

宮城県地方税滞納整理機構

宮城県では、平成21年4月1日より、県を組織の中心として、仙台市を除く宮城県内の22市町村により任意的に組織された宮城県地方税滞納整理機構(以下「滞納整理機構」といいます)が、徴収技術の向上を目標にして稼働を始めました。
仕組みとしては、参加市町村の徴税担当者が、宮城県地方税徴収対策課に設置された滞納整理機構に派遣され、宮城県及び他市町村との併任辞令を受けます。これにより、徴税担当者は、宮城県内の参加市町村全ての税滞納者に対しての徴税をすることができるようになります。派遣は概ね1年間ですが、滞納整理機構で学んだ徴収技術を、市町村に持ち帰ることにより、市町村としての徴収技術を高めるという効果が期待されています。

滞納整理機構の功罪

このような理念で設置された滞納整理機構は、悪質な滞納者から短期間で徴収を行うことにより、税負担の公平性を維持すると共に、徴収担当者の徴収技術の向上を目指すという役割が期待されていました。具体的に、滞納整理機構の引受案件の徴収率を見てみると、以下の通りとなっています。
平成21年度        21.0%
平成22年度        32.4%
平成23年度        45.5%
平成24年度        52.3%
平成25年度        53.8%
平成26年度        51.2%
平成27年度        51.6%
平成28年度        55.0%

一目瞭然ではありますが、初年度から平成25年度まで徴収率は上がり続け、平成24年度以降は、常に50%を超える徴収率を維持し続けています。
しかし、滞納整理機構が引き受けるのは、参加市町村における、回収困難案件(=長年にわたり徴収ができていない税滞納者の案件)です。すなわち、悪質な滞納者の事案については、滞納整理機構が設立されてから数年の内に処理が終わっているものと推察され、その後については、単純な長期未徴収案件が滞納整理機構に委託されているであろうということです。単純な長期未徴収案件とは、要するに、生活困窮により「納税したくてもできない」という税滞納者なのです。
実際に、生活困窮者から滞納税金を強制的に納付させたことによる弊害が、ここ数年、宮城県内では後を絶たなくなりました。以下では、具体的事例を簡単に説明します。

質問・検査による威圧

滞納整理機構は、税滞納者の自宅を訪問することが多くあります。そして、その場で納税相談と称して、納付方法について提案をさせます。ただでさえ、複数名が何の予告もなく自宅を訪れていることで困惑している税滞納者に対し、短期間での納付を強要します。

税滞納者が、月3万円しか支払えないと言っても、1年で完納するためには月10万円必要な場合には、10万円と本人が口にするまで帰りません。みやぎ生協で行っている貸付制度を利用して一括納付をすることを求められることも少なくありません。サラ金がそのような取立を行った場合には、即貸金業法21条違反で業務停止を受けるような取立が、恒常的に行われています。

税滞納の解消と破産と生活保護事例

別の事例では、税滞納者が、精神障害を抱える娘と同居していたことから、娘の生活費、発作による入院費、精神を安定させるための気分転換の費用がかかり、月3万円程度の分割納付しかできない世帯に対し、給料の差押をほのめかし、強圧的な取立を繰り返していました。これに屈した税滞納者の妻は、銀行から借入れを行い、滞納税金の一部を一括納付しようとしました。その直後、娘が発作を起こし、強制入院となり、借入金の大半は入院費に回さざるを得なくなりました。

この時点で、税滞納者は、滞納税金の解消のため、娘との同居を諦め、借入金の残金で娘が一人暮らしをするための家財道具などを購入し、娘には世帯分離の上で生活保護を受給させることとしました。また、借入をした妻は、自己破産をしました。これにより、税滞納者の世帯には余裕資金が生まれ、滞納税金を滞納整理機構が求める月8万円の納付ができるようになりました。

結論としては解決してよかったように思えますが、本当にそう思えますか。

給料全額差押事件

滞納処分であっても、給料の全額を差し押さえることはできません。しかし、滞納整理機構は、給料が預金口座に入金されれば、これは全額差し押さえても問題がないとの立場をとっています。この見解により、1ヶ月分の生活費である給料をまるごと差し押さえられてしまった税滞納者もいます。

この税滞納者は、息子と二人暮らしでしたが、息子は精神障害を抱え無職でした。税滞納者は、2ヶ月で1万円に満たない年金と、パートでの給料12万円程度で生活をしていました。給料を差し押さえようとしても、全額差押禁止(国税徴収法76条1項)でした。

そこで、滞納整理機構は、給料が入金される預金口座と入金日を調べ上げ、口座に入金された直後に、全額を差し押さえてしましました。
この税滞納者と息子は、どうやって次の給料日までに生活していくと思ったのでしょうか。そんなことは構わないのかもしれません。
これが、宮城県地方税滞納整理機構の実態なのです。