滞納処分対策全国会議 事務局長
弁護士 佐藤 靖祥
1 リモート会議の活用
本年度も、昨年度から引き続き、新型コロナウイルスの拡大がとどまることを知らず、当会議の活動も制約される中での活動とならざるを得ませんでした。
当会議としても、昨年度から引き続き、zoomを利用したリモート会議を開催し、事務局会議及び総会については、すべてリモート会議を行いました。
とは言っても、事務局会議については、ほぼ毎月1回のペースを維持して開催を継続しています。
事務局会議については、事務局でなくても広く参加していただけます。ご関心のある方、事案に関しての相談がある方など、会員のみなさまのご参加は大歓迎です。
会議参加のご案内は、その都度メーリングリストにて配信しておりますので、遠慮なくご参加ください。
なお、今年度は、新型コロナウイルスに関する規制がほぼ撤廃される見込みですので、問題のある自治体での集会開催及び、自治体への申入を再開させたいとも考えております。
具体的には、千葉県で悪質な取立案件が続出しているとの情報がありますので、調査の上、集会開催及び申入れをしていきたいと考えております。
みなさまにおかれましても、問題のある対応をしている自治体を察知された際は、当会議宛に情報提供をしていただきますようお願いいたします。
2 総会における解決事例の報告
令和4年6月14日に開催された当会議の総会においては、例年通り、決算、予算、役員人事、活動方針などが決められました。活動方針を決定する際、問題のある自治体での活動を再開したいとの強い意向が示されましたが、昨年度は、新型コロナウイルスに関する規制が完全には撤廃されなかったため、残念ながら実現はできませんでした。今年度こそは実現していきたいと思います。
また、引き続きなされた各地からの報告では、千葉県による住民税の徴収が過酷を極めているという事例が報告されました。朝6時台に9名の職員らが自宅を訪れ、自宅内を捜索した結果、こども名義の口座を発見し、これを引き出させて納付に充てさせたという案件があるとのことでした。
この件は、本人の意向で詳細は表沙汰にはできていないとのことでしたが、手慣れた手口の雰囲気もあることから、氷山の一角の可能性が高いものと思われます。
引き続き情報を共有しながら、問題案件については、当会議としても申入をしていこうということとなりました。
事例報告としては、そのほか、角谷代表による、給料等の入金された口座の差押を原則控えるという令和2年1月31日国税庁通知以降にも、年金しか入金されていない口座を差し押さえられた事案の報告や、私の経験した、滞納処分停止を得た6人家族の事案の報告もいたしました。
議論の中では、「生計を一にする親族」の解釈が、所得税法上の扶養親族に限られるのか否かについての議論もありました。
これについては、同居している場合には、完全に独立した生活をしているなど、よほどの事情がない限りこれに該当するものとの回答が国税庁よりなされています。
徴収の現場と、国税庁の解釈との間に齟齬が生まれている典型的な場面であることが確認されました。
当会議としては、引き続き過酷な滞納処分問題に取り組んでいくという姿勢を共有できた総会であったと思いました。
3 クレサラ被害者交流集会分科会主催
令和4年10月21日には、クレサラ被害者交流集会における分科会「滞納処分問題の実情と解決」を、リモート開催にて主催しました。
この分科会では、私、角谷代表及び仲道事務局次長が、それぞれの立場からの事例報告をいたしました。
私の方からは、滞納処分の解決に必要な知識としては、債務整理と同様の生活実態の把握とそれに基づく交渉であることを、実際に私が経験した事案を紹介しつつ説明させていただきました。クレサラ対協では、かつて、納税緩和制度に関する講義を行ったことがあるのですが、全く経験のない税法に関する分野であることから、興味、関心を十分に引くことはできませんでした。そこで、主にクレサラ対協の会員が参加するこの分科会においては、クレサラ対協が長年行ってきた債務整理のノウハウこそが、滞納処分問題でも生きてくるというお話をさせていただきました。
次に、角谷代表から、宮崎県で起きている、自治体職員が、税滞納者の営業用のカメラを、不在の時に自宅に入り込んで差し押さえたという事案についての経過報告がなされました。
この事案では、納税課で滞納税金の納付に関する相談をしようとしても、即納、短期完納を強要されるという相談にすらならない状況が続いている中で、自治体職員が突如自宅を訪問し、動産類を差し押さえたというものでした。
この事案を対応した角谷代表は、このような、税滞納者の生活実態を顧みない徴収姿勢の問題点を指摘しつつ、喫緊の課題として、営業用のカメラが公売に掛けられることを阻止すべく審査請求をしました。
営業用の資産については、国税徴収法75条1項5号において、差押禁止財産となる、との理屈で審査請求をしたところ、当然のことながら主張が認められ、無事カメラは戻りました。
今後は、分納交渉などを根気よく続けていくこととなりますが、このような、差押禁止財産を当たり前のように差し押さえるという自治体の対応を見ると、法制度をきちんと理解しないまま、回収一辺倒の徴収実務が横行していることに、憤りを感じると共に、もし、専門家に相談していなければどうなったことかという恐怖心も抱かざるを得ない報告でした。
最期に、仲道事務局次長からの成功事例が2件報告されました。
1件目は、住民票を分離して生活していた6人世帯の1名が、滞納処分による給料の差押を受けたという事案でした。この事案では、住民票通りの世帯として差押禁止の範囲を計算すると、15万円が差押禁止債権ではないこととなりますが、現実の同居親族6人として計算をすると、全額が差押禁止債権となる案件でした。
この事案では、住民票の分離をやめて6人世帯として再交渉をしたところ、差し押さえられた15万円が全額返金されたとのことでしたが、国税庁は、住民票が分離していても、同居して生計を一にしている親族数で計算するという実質的な評価をしていることからすると、形式的な住民票の単一性を求める自治体の運用は不適切と考えられます。
2件目は、同居の息子が滞納した国民健康保険料につき、母親の給料が差し押さえられた案件でした。国民健康保険料の納付義務は、世帯主にあることから、息子の滞納分につき、母親の財産が差し押さえられること自体は誤りではありませんが、国民健康保険に加入してもいない世帯主であっても納付義務があるという、そもそもの制度自体がおかしいといわざるを得ません。
この件については、仲道事務局次長は、息子は社会保険の加入資格があることを察知したため、遡って社会保険の被保険者としてもらうよう勤務先と交渉し、これが認められたことによって、国民健康保険料も遡って支払義務がなかったこととなり、事なきを得ました。延滞していた国民健康保険料を、そもそも発生していなかったこととするという解決方法には唸らされました。
三者がそれぞれの経験を報告することにより、参加者もイメージがつかめたのではないかと感じられる分科会でした。
4 令和5年税研集会分科会「社会保障と滞納問題」
令和5年の税研集会は、1月28日、29日に開催されました。
当会議は、29日に開催された分科会「社会保障と滞納問題」を主催させていただきました。令和4年税研集会も、会場とリモートの併用をしたハイブリッド方式で開催されました。
分科会では、まず、中央社会保険推進協議会の事務局長である林信悟氏から、国民健康保険及び介護保険の問題点についてご解説いただきました。
国民健康保険については、納付ができないと保険証を取り上げて納付を事実上強制するという手法が横行しているという点や、扶養人数が増えれば増えるだけ保険料額が上がるという応益割の問題点などが指摘されました。
また、介護保険については介護サービス利用料の負担率が2割ないし3割とされる対象が拡大され、居住費や食費が対象とならないなどの問題点が指摘されました。そもそも、介護従事者の賃金が、その専門性に見合っていない現状も問題であるとの指摘がなされました。
次に、当会議の仲道事務局次長より、生活保護の問題点と、滞納処分停止に関する報告がなされました。
生活保護については、いわゆる水際作戦や、親族への扶養照会、自動車保有の困難性などの問題により、要保護世帯であるにもかかわらず、申請がなされないことが恒常化しているという現状が報告されました。また、滞納処分停止については、生活保護を受給していない限り適用されないという運用をとる自治体が多いという問題も指摘されました。
午後に入ってから、当会議角谷代表より、「少子高齢化社会への対応のため」と銘打って導入された消費税であるにもかかわらず、消費税歳入に見合った社会保障予算がとられないなど、社会保障がないがしろにされてきた歴史について報告されました。また、インボイス導入により、これまで免税とされていた事業者が消費税の納付を余儀なくされることとなり、消費税滞納案件の増加が懸念されるとの報告がなされました。
最後に、自治体で徴収を行っていた元自治体職員から、徴収の現場においては、まず納税緩和制度から検討すべきであるというお話をいただきました。まさに、当会議が目指す、個別具体的な税滞納者の実情を踏まえた適切な徴収実務を志向する自治体があることがわかり、非常に心強く感じました。
これらの講義と平行して会場からの発言を求めたところ、千葉県及び茨城県からの、不適切な徴収実例が報告されるなど、税滞納者の個別具体的な生活実態を踏まえた徴収が行われていないことが共有されました。
この分科会を通じて、インボイス導入に伴う消費税滞納事案の増加と、悪質な徴収を行う自治体への対応が必要となるものと確信しました。
5 その他
その他の活動としては、「増補改訂版 滞納処分対策Q&A」については、新型コロナウイルス関連の特例が廃止されるなどしたため、現在改訂に向けて検討中です。このように、内容が現状を踏まえたものとはなっていない箇所などがありますが、その他の部分については現在でも十分に使えるものです。
そのため、在庫処分の方策として、全国各市宛てに、1冊ずつ送付をしてみました。
すると、自治体職員から「個人として購入したい」「部内で共有したいのでもう1冊ほしい」などといった問い合わせが来るようになりました。このように、あるべき徴収に関心を示す自治体があるということは、非常によい傾向であると思いました。
今後も、今回の送付実績をてことして、様々な情報発信を各市に対しても行っていきたいと思いました。
このように、当会議は引き続き様々な情報発信、情報交流を図っていきますので、みなさまのご協力をいただきますようお願いいたします。
以上
