滞納処分対策全国会議 事務局長
弁護士 佐藤 靖祥
1 リモート会議の活用
本年度は、新型コロナウイルスによる行動規制が緩和されたものの、ウェブを利用した事務局会議は継続しました。事務局会議は、月1回のペースを保って実施することができており、充実した議論がなされているのが現状です。
事務局会議については、事務局でなくても広く参加していただけます。ご関心のある方、事案に関しての相談がある方など、会員のみなさまのご参加は大歓迎です。
会議参加のご案内は、その都度メーリングリストにて配信しておりますので、遠慮なくご参加ください。
一方で、現地に赴いて直接の打合等も行いました。
以下で述べるように、千葉民商との打合、中村教授との打合などを面接にて行いましたが、その後の懇親会を含め、面接による打合の充実度合いを改めて実感いたしました。また、税研集会もウェブ併用を廃止したため、直接顔を合わせて行いましたが、こちらも議論が深まりました。
このような経験を踏まえ、直接顔を合わせて議論を行う機会を今後は増やしていきたいと痛感いたしました。
その一環として、問題のある自治体での集会開催及び、自治体への申入を再開させたいとも考えております。
具体的な事例を募集しておりますので、みなさまの地域で問題と思われる事案がありましたら、遠慮なく、MLや当職あてにご連絡いただきますようお願いいたします。
2 総会とインボイスに関する特別講演
令和5年5月29日にzoomにて開催された当会議の総会においては、例年通り、決算、予算、役員人事、活動方針などが決められました。また、当会への参加にあたり、従前推薦人を2名必要としておりましたが、これを1名にする旨の規約改正もなされました。
採択された活動方針には、インボイス導入に反対し、消費税滞納者に対する納税緩和制度の弾力的適用を求める旨を盛り込みましたが、これに関連し、当会会員であり、田村貴昭衆議院議員秘書である村髙芳樹氏を講師に招き、特別講演「インボイスで1000万者が廃業・倒産の危機?」を実施しました。
大規模な反対運動があったにもかかわらず、インボイス制度は、令和5年10月より導入されてしまいましたが、最も影響を受けるのは、課税売上高が1000万円以下の免税事業者といわれています。免税事業者がインボイスに登録して課税事業者とならなければ、当該事業者から仕入をした事業者は、仕入税額控除を受けられないこととなります。そのため、免税事業者がインボイスに登録しないままでいると、いずれは他社との競争で排除されていってしまうという問題があります。
村高会員からの報告は、このような基本的な問題のみならず、その波及的効果まで言及がありました。
例えば、太陽光発電により売電をしている者、実質的には雇用されているように見えるものの契約形態が雇用であったり委託であったりする者などが、「登録が必要」などと説明され、登録することによる課税の問題についてきちんと理解しないまま登録してしまう例が後を絶たないことなどがあります。一方で、登録は必要ない、という前提としてしまえば、仕入税額控除ができない事業者は、電気料金やサービス料金に反映していくこととなりますので、値上がりに直結していき、国民生活に影響が生じていきます。
また、例えば駆け出しの声優や俳優などが、インボイスに登録しなければならないこととなると、消費税の納税により、実質的に1割の収入減となり、経済的に過酷となります。また、芸名を用いても本名や住所の登録が必要となりますから、インボイスの情報から個人情報が漏洩、拡散していくことも懸念されます。その結果、これらを目指す若者がいなくなり、文化芸術の衰退につながるおそれなども指摘されました。
さらに、インボイスに登録をしていないのに、適格請求書を発行する偽インボイスなどが横行するようになると、仕入税額控除をするにあたり、一つ一つ、登録の有無を確認しなければなりません。税務申告をする税理士の負担も激増することとなり、税理士報酬の増額をしていかなければならなくなります。
このような、単に免税事業者であった事業者の経済的負担に限られず、国民生活全体や、文化芸術など業界全体の衰退につながっていくおそれなどが指摘されたことについては、衝撃を受けました。
当会議としては、インボイスの導入により、消費税の滞納が増えていくことが懸念される中、そもそも、インボイスという制度を導入することの可否から検討されなければならないと考えさせられる講演でした。
インボイスが導入されてしまった今、特に中小零細事業者の消費税滞納者に対しては、納税緩和制度を弾力的に適用すべきことを、当会議としては求めていく必要性を強く感じました。
なお、村髙会員による講義の資料は、当会議ホームページよりダウンロードできますので、ご一読いただきますようお願いいたします。
3 クレサラ被害者交流集会分科会主催
令和5年10月23日には、クレサラ被害者交流集会における分科会「被害事例に学ぶ、滞納処分対策の具体的方法」を、リモート開催にて主催しました。
この分科会では、私、角谷代表及び仲道事務局次長が、滞納処分に関する交渉の現場において、徴収する側がよく主張することを指摘した上で、その主張がどう誤っているのかについて、具体的な事例に即した報告を行いました。
最初に、当会代表の角谷啓一税理士より、主に換価の猶予に関して、徴収する側がよく主張する事例を集めた報告がなされました。
例えば、分納可能額を示したとしても、「それではだめだ、1年以内に完納できる金額でなければ応じられない」などと言われることがよくあります。しかし、国税徴収法基本通達152-7には、「法第152条第1項の『それぞれの月において合理的かつ妥当なもの』とは、滞納者の財産の状況その他の事情からみて、滞納者の事業の継続又は生活の維持を困難にすることなく猶予期間内の各月において納付することができる金額であって、かつ、その猶予に係る国税を最短の期間で完納することができる金額をいう。」という形で、かかる主張とは真逆の対応をとるべきことが示されています。
角谷代表は、このような、徴収する側の誤解を正す論証を、具体的な事例を挙げながら説明しており、非常に参考になりました。
なお、角谷代表の使用した資料は、当会議ホームページにアップしてありますので、是非ご参照ください。
次に、私の方から、東京都下の自治体から、市県民税の滞納処分において、生活苦により納付ができなくなったところ、給料を差し押さえられた案件に即しての報告をいたしました。
この事案では、差し押さえされてしまう給料月額が6万円程度でしたが、税滞納者の個別具体的な生活実態を踏まえた徴収をすべきとの内容を示した総務省通知や、衆議院財務金融委員会における総務省の答弁などを示して、粘り強く交渉したところ、差押の範囲を納付可能額にまで減縮する形で解決がなされましたが、その交渉は、債務の整理と全く同じだということを報告しました。
最後に、仲道事務局次長より、給料が口座に振り込まれた直後に預金口座を差し押さえられた事例について報告がなされました。
かかる手法は、大阪高裁令和元年9月26日判決により、違法であるとの判断が示された後、国税庁が令和2年1月31日に、かかる手法は原則としてしてはならないとの通知を各税務署に発出していますから、基本的には許されない手法であることは明白です。仲道事務局次長は、これらの裁判例や通知などを示して粘り強く交渉を行い、事なきを得ましたが、このような報告を聞くにつれ、裁判例や通知を把握しておくことがいかに重要かということを改めて認識させられました。
その後、若干の意見交換を行い、分科会は無事終了しました。
滞納処分への対応は、債務の整理と同じであり、ただ、徴収をする側が、制度を正確に理解せずに闇雲に徴収を行うことがあるので、それに対抗する資料や根拠を示す必要がある、ということが確認された分科会でした。
4 令和5年税研集会分科会「社会保障と滞納問題」
令和6年の税研集会は、1月27日、28日に開催されました。
当会議は、28日に開催された分科会「滞納処分における納税者の権利」を主催させていただきました。令和6年税研集会は、従前の会場とリモートの併用をしたハイブリッド方式を改め、会場参加のみとして開催されました。
当分科会では、冒頭に、現職の国税職員から、国税における滞納処分の現状が報告されました。内容については、詳細は申し上げられませんが、コロナによる納税緩和制度の緩和措置がなくなったこと、インボイス制度導入による今後の見通し、税務行政のオンライン化による財産調査、コールセンターと税務署の徴収部門の役割などが語られ、大変興味深かったです。
特に、コロナによる特例的な対応がなくなったことに加え、インボイス導入により課税事業者が爆発的に増えることに伴い、国税においても徴収強化が危惧されているという指摘は、当会議においても注視していかなければならない状況であるものと認識させられました。
次いで、当分科会のメイン講義として、青山学院大学の中村芳昭名誉教授より、「徴収手続上の納税者の権利から納税者権利保障立法・憲章の制定に向けて」と題する講演をしていただきました。
中村教授には、令和3年5月に開催した当会議の総会においてもご講演をいただいた、比較法的に納税者の権利について研究をされている、納税者権利憲章についての第一人者というべき研究家です。中村教授は、このたび、ダンカン・ベントレー氏の著作である、「納税者の権利-理論・実務・モデル」を翻訳もされましたので、ご興味のある方は、是非お買い求めください(株式会社勁草書房)。
中村教授からは、我が国にも、納税者の権利を保障する規定が法文内に散在しているものの、裁量の幅が大きく、権利性として不十分になっていることが指摘されました。その上で、中村教授が特に専門的に研究されているアメリカの納税者の権利規定につきご解説いただきました。
権利としての規定はあっても、それが具体的な権利として確立していなければ意味がありません。そういった意味で、諸外国では納税者の権利に関する規定・憲章が設けられているにもかかわらず、我が国だけが規定・憲章が存在しないという状況は、いち早く脱却しなければならないものと考えさせられました。
次いで、我が国においても、納税者の権利に関する規定を制定するために活動を続ける、TCフォーラムの平石共子税理士より、諸外国における納税者の権利に関する規定の制定状況を始め、OECDの示した、納税者の権利に関する規定の国際モデルについてのご説明をいただきました。
我が国は、納税者の権利に関する規定がないことだけでも特異であり、加えて、納税者を支援する制度が税理士のボランティア活動に依拠しているなど、諸外国と比べて極めて貧相な状況にあることがわかり、ますます納税者の権利に関する規定の制定が必要と感じました。
そして、納税者権利憲章の案を具体的に提言し続けてきた、全国商工団体連合会の服部守延さんより、あるべき納税者権利憲章についてのお話をいただきました。
我が国においては、税務相談をはじめとする税務書類の作成については、原則として税理士以外はできないものとされているため、ややもすれば、納税者同士が学習する機会を奪いかねないことから、国民一人一人が、納税者として自立した人格として育っていくことも必要とのご意見には納得させられました。
このような講義を受けた上で、意見交換がなされました。
意見交換においては、特に滞納処分の過酷な地方税に話題が集中しました。
そのような中で、地方税の徴収職員をしていた方から、担当者自身が滞納者の話をよく聞き、相手を信頼することの重要性などが説かれました。その中で、いわゆる過払金の返還請求や、税の還付手続など、滞納者にプラスになることについても助言をすることにより、納税者からの信頼を受けることが肝要であるとの徴収職員のあるべき姿勢が語られた際には、心底頷かされました。
このような徴収職員の姿勢の上に、納税者の権利が確立していけば、地方税についても、過酷な滞納処分はもはや過去の遺物とすることができるので、いずれの側面からも改善を図っていく必要があろうかと考えさせられました。
このような形で、合計4時間にわたる分科会は、盛況の中で終わりました。
これまでは、新型コロナウイルスの影響から、ウェブも併用するハイブリッド形式での分科会が続いていましたが、今回は、ウェブ併用をなくした関係で、久しぶりに関係者一同が顔を合わせた形での分科会が開催できました。また、メイン講義をしていただいた中村教授との打合も、直接面談して行いました。
やはり、ウェブを通じての議論ではなく、みなさまと顔を合わせながら議論ができるということは、議論を深める上でも、私的な交流を深める上でも、重要と感じられました。今後も、関係者と顔を合わせながら、当会としての活動も深めていきたいと感じられる分科会でした。
5 仲道事務局次長逝去
大変悲しいお話になりますが、当会議のブレーンであり、対外的な講師を積極的に引き受けていただいていた仲道事務局次長が、令和6年3月20日、急逝しました。
2月26日の事務局会議でも元気な姿を見せていただいていたので、第一報を聞いても、嘘としか思えませんでした。
通夜、告別式などに、私は参加できませんでしたが、会計の小倉さんに参加していただきました。本当に急逝だったとのことでした。
私としては、公私ともにお付き合いしていた仲道事務局次長に、正式にお別れをしたいと考え、事務局メンバーに声がけをして、4月7日に、仲道事務局次長の執務場所であった、ぐんま市民司法書士事務所にて弔問をさせてただく機会をいただきました。
当日は、角谷代表、小倉さんと3人で、仲道事務局次長の奥様を訪問させていただき、弔問をさせていただきました。
最初に驚かされたのは、仲道事務局次長の遺影でした。青空を背景に、今にも私たちに語りかけてきそうな、仲道事務局次長そのものの写真が遺影となっていました。奥様のお話によれば、仲道事務局次長は、とにかく自分が好きで、自撮り写真が山ほどあったそうです。通常は、遺影に適した写真を探すことで苦労するのですが、仲道事務局次長の場合は、逆に、あまりに写真が多すぎて選ぶことで苦労されたそうです。
思い出話は尽きませんでした。
ラーメンが何よりも好物であったこと、仙台くらいであれば車で移動していたことなどの思い出や、締め切りギリギリにならなければ執筆する気になれないという性格から、周りをヒヤヒヤさせてばかりいたことなどの笑い話など、話が尽きることはありませんでした。
また、奥様の話によれば、仲道事務局次長は、「司法書士という資格が国家から与えられている以上、国民のためにその資格を生かしていくことが仕事だ」と繰り返し、寝る間も惜しんで仕事をしていたとのお話をいただきました。私から、何時間くらい寝ていたのかを尋ねたところ、ベッドでなど寝ることはほとんどなく、執務机の椅子を倒して休み、目が覚めれば直ちに仕事を再開するという生活だったそうです。疲れがとれないのではないかとも思うのですが、仲道事務局次長にとってはその生活が合っていたようだったとのことでした。
本当に、どんな案件にも真剣に取り組んできた仲道事務局次長の姿勢は、間近でその仕事ぶりを見てきた私たちこそが引き継いでいくべきだと思いました。
仕事の上でも、酒席でも、仲道事務局次長とお話をするのが楽しみでした。その仲道事務局次長がいなくなってしまい、喪失感は筆舌に尽くしがたいものとなっています。しかし、仲道事務局次長の意志を継いで、前を向いてますます頑張っていかなければならないと思っております。
なお、事務局メンバーが欠けたことから、当会議の運営に支障が生じております。事務局に加わっていただける方を急募しております。自薦他薦を問いませんので、ご協力をいただける方をご紹介ください。なお、事務局の仕事としては、毎月1回ウェブで開催される事務局会議に可能な限り参加していただき、ご意見をいただく程度です。是非、前向きにご検討いただきますようお願いいたします。
6 その他
その他の活動としては、各地での悪質滞納処分事案について情報を収集しています。
具体的には、千葉県内では軒並み強圧的な徴収が横行しているとのことでしたので、千葉民商の鈴木氏と面接をして状況の確認をするなどしました。いずれ、状況が把握でき次第、学習会を含めた集会を開催したいと考えています。
また、「増補改訂版 滞納処分対策Q&A」については、新型コロナウイルス関連の特例が廃止されるなどしたため、現在改訂に向けて検討中です。
このように、当会議は引き続き様々な情報発信、情報交流を図っていきますので、みなさまのご協力をいただきますようお願いいたします。
以上
