いのちとくらしを守る税研修会分科会の主催

当会議は、令和6年1月27日、28日に開催された、「第6回 いのちとくらしを守る税研集会」において、28日に開催された第5分科会「滞納処分における納税者の権利」を担当しましたので、その内容をご報告いたします。

当分科会では、冒頭に、現職の国税職員から、国税における滞納処分の現状が報告されました。内容については、詳細は申し上げられませんが、コロナによる納税緩和制度の緩和措置がなくなったこと、インボイス制度導入による今後の見通し、税務行政のオンライン化による財産調査、コールセンターと税務署の徴収部門の役割などが語られ、大変興味深かったです。

特に、コロナによる特例的な対応がなくなったことに加え、インボイス導入により課税事業者が爆発的に増えることに伴い、国税においても徴収強化が危惧されているという指摘は、当会議においても注視していかなければならない状況であるものと認識させられました。

次いで、当分科会のメイン講義として、青山学院大学の中村芳昭名誉教授より、「徴収手続上の納税者の権利から納税者権利保障立法・憲章の制定に向けて」と題する講演をしていただきました。

中村教授には、令和3年5月に開催した当会議の総会においてもご講演をいただいた、比較法的に納税者の権利について研究をされている、納税者権利憲章についての第一人者というべき研究家です。中村教授は、このたび、ダンカン・ベントレー氏の著作である、「納税者の権利-理論・実務・モデル」を翻訳もされましたので、ご興味のある方は、是非お買い求めください(株式会社勁草書房)。

中村教授からは、我が国にも、納税者の権利を保障する規定が法文内に散在しているものの、裁量の幅が大きく、権利性として不十分になっていることが指摘されました。その上で、中村教授が特に専門的に研究されているアメリカの納税者の権利規定につきご解説いただきました。

権利としての規定はあっても、それが具体的な権利として確立していなければ意味がありません。そういった意味で、諸外国では納税者の権利に関する規定・憲章が設けられているにもかかわらず、我が国だけが規定・憲章が存在しないという状況は、いち早く脱却しなければならないものと考えさせられました。

次いで、我が国においても、納税者の権利に関する規定を制定するために活動を続ける、TCフォーラムの平石共子税理士より、諸外国における納税者の権利に関する規定の制定状況を始め、OECDの示した、納税者の権利に関する規定の国際モデルについてのご説明をいただきました。

我が国は、納税者の権利に関する規定がないことだけでも特異であり、加えて、納税者を支援する制度が税理士のボランティア活動に依拠しているなど、諸外国と比べて極めて貧相な状況にあることがわかり、ますます納税者の権利に関する規定の制定が必要と感じました。

そして、納税者権利憲章の案を具体的に提言し続けてきた、全国商工団体連合会の服部守延さんより、あるべき納税者権利憲章についてのお話をいただきました。

我が国においては、税務相談をはじめとする税務書類の作成については、原則として税理士以外はできないものとされているため、ややもすれば、納税者同士が学習する機会を奪いかねないことから、国民一人一人が、納税者として自立した人格として育っていくことも必要とのご意見には納得させられました。
このような講義を受けた上で、意見交換がなされました。

意見交換においては、特に滞納処分の過酷な地方税に話題が集中しました。
そのような中で、地方税の徴収職員をしていた方から、担当者自身が滞納者の話をよく聞き、相手を信頼することの重要性などが説かれました。その中で、いわゆる過払金の返還請求や、税の還付手続など、滞納者にプラスになることについても助言をすることにより、納税者からの信頼を受けることが肝要であるとの徴収職員のあるべき姿勢が語られた際には、心底頷かされました。

このような徴収職員の姿勢の上に、納税者の権利が確立していけば、地方税についても、過酷な滞納処分はもはや過去の遺物とすることができるので、いずれの側面からも改善を図っていく必要があろうかと考えさせられました。
このような形で、合計4時間にわたる分科会は、盛況の中で終わりました。

これまでは、新型コロナウイルスの影響から、Webも併用するハイブリッド形式での分科会が続いていましたが、今回は、Web併用をなくした関係で、久しぶりに関係者一同が顔を合わせた形での分科会が開催できました。

やはり、Webを通じての議論ではなく、みなさまと顔を合わせながら議論ができるということは、議論を深める上でも、私的な交流を深める上でも、重要と感じられました。今後も、関係者と顔を合わせながら、当会としての活動も深めていきたいと感じられる分科会でした。

事務局長 弁護士 佐藤 靖祥