前橋市の異常な市税徴収と闘う!

なりふり構わず市税を徴収する前橋市

関東平野の北西部に位置する群馬県、その県庁所在地が前橋市である。人口約34万人を擁する県都だが、中心市街地の路線価は全国の県庁所在地の中で常に最下位を争うほど低く、オフィスビルの空室率も常時30%を超えているという、衰退著しい都市でもある。

この衰退する地方都市において、過酷な市税の徴収が始まったのは、平成17年頃のことである。かつて、前橋市の市税徴収率は90%を割ることはなかった。だが、バブル崩壊後の長引く経済状況の悪化はこの地方都市を直撃し、その結果、平成16年度の市税徴収率は過去最低の88.7%にまで落ち込んだ。前橋市の一部職員たちはこういった状況に危機感を覚え、相互に意見を出し合い、その中で、①税は公共サービスを提供するための根幹であり滞納は絶対に許さない②前例にとらわれず攻めの徴収を行う、という共通認識を持つようになった。こういった職員たちの動きを高木政夫前市長が積極的に擁護したことにより、前橋市は、全国の市町村の中でも類をみないほど強硬な市税の徴収を行う自治体となったのである。その徴収手段も様変わりし、滞納者の家庭を職員が訪問し、対話に基づいて税を徴収するというかつての手法を捨て、滞納者を市役所に一方的に呼び出して納税を迫り、滞納が解消しなければ差押により税の強制徴収を行うという手法をとった。これにより、市税滞納による財産差押件数は平成16年度には896件だったものが、わずか5年後の平成21年度には8,992件と、なんと約10倍にも増加したのである。まさになりふり構わぬ異常な市税の徴収である。

市民を生活困窮に追いつめる前橋市

私は、同じ平成16年頃から、司法書士として多重債務問題に取り組み始めた。当時は、多重債務者のほぼ全員に税金の滞納がみられたものである。ただし、他の市町村に在住する方とは異なり、前橋市に市税の滞納がある方は強硬に納税を迫られるだけでなく、給与や売掛金、さらには銀行預金といった財産を突然差し押さえられて、生活困窮に陥ることさえあった。

例えば平成19年に出会ったAさん。かつては前橋の中心街で飲食店を経営していたが閉店を余儀なくされ、契約社員として食品工場に勤務していた。不安定な非正規雇用ながら、ようやく手取り20万円前後の給与を得られるようになっていた。しかしながらある日、給与を下ろしに銀行に行ったところ、彼の銀行口座に振り込まれたその給与は、全額前橋市に差し押さえられていた。彼は自営業時代に、仕入れ先への支払いや借金の返済に追われ、市民税や国保税を納付できなかった。そのため彼は前橋市に市税の滞納が100万円近くあり、銀行口座に振り込まれた給与をすべて差し押さえられてしまったのだ。

平成20年に出会ったBさん。職場で知り合った夫との間に2児をもうけるも、夫は失業し、多額の負債を抱えたことから離婚。ある金融機関の臨時職員として働き、小学生と中学生の2人の子を育てていたが、やはり前橋市に対して市民税及び国保税の滞納があった。そしてある日、アパートの更新料を支払うため銀行口座に振り込まれた児童扶養手当を引き出しに行ったところ、全額は引き出せなかった。振り込まれたはずの児童扶養手当は「銀行預金」として差し押さえられていたのである。

平成21年に出会ったCさん。勤務先をリストラされ、住宅ローンが支払えなくなったため、やむなく住宅を手放さざるを得なくなった。彼には固定資産税や市民税などの滞納があったことから、土地と建物にはそれぞれ前橋市によって差押えの登記がされており、しかも前橋市が本税のみならず延滞金も含めて滞納税全額を納付しなければ差押えを解除しないと強く主張したため、結局住宅の売却がかなわず裁判所で強制競売されてしまった。その後、彼は自己破産したが、滞納した市税はそのまま全額残り、現在もこれを分割して納付し続けている。

私はこの数年の間、こういった方々を一体何人見てきただろうか。サラリーマンの給与や、自営業者の売掛金などが差し押えられた例は、それこそ挙げればきりがない。日本中で所得格差が広がり、中小自営業者が廃業に追い込まれ、正社員が非正規雇用になり、生活保護受給者が200万人を越えていったこの数年の間に、前橋市は強硬な市税の徴収を推し進めていったのである。平成21年度には8,992件に上った財産差押え件数は、その後も減少することなく、ほぼ毎年にわたって8,000件以上の差押えがなされている(平成25年度は8,474件)。人口37万人以上の高崎市においてはその半数にも満たず、人口50万人を超える栃木県宇都宮市ではせいぜい1,500件から2,000件であることを考えるならば、この前橋市の差押え件数の異常さが理解できるはずだ。そしてその異常さは、ここに取り上げたように、さまざまな理由で生活が破たんして市税を滞納するに至った市民の生活再建が、前橋市の財産差押えによって妨害されていることを意味するのである。

違法の疑いある差押えをする前橋市

それにしても、AさんやBさんの事例のように、給与の全額や児童扶養手当を一方的に差し押さえることが果たして許されるのだろうか。

この点、税債権は、一般民事債権とは異なり、債務名義によらず自ら強制執行することが可能である(自力執行権)。税の納期限経過後、20日以内に督促状を発送し、原則として督促状発送日から10日以内に完納されない場合には、租税の滞納処分として、差押えが可能となる(国税通則法37条、同40条、国税徴収法47条。これらは地方税法においてすべて準用される)。しかも差押えの前提として、滞納者の財産に対する調査権が認められており、任意調査(質問・検査)のみならず、一定の場合には強制調査(捜索)も許されるのである(国税徴収法141条~同147条、地方税法においても準用)。

例えば前橋市は、市税を滞納する前橋市民について、その所有する不動産や自動車の資産価値ばかりでなく、すべての銀行に対して照会することにより、銀行預金口座の有無やその残高、いつが給料日なのか、生命保険に加入しているか、解約返戻金はいくらか、勤務先及び給与の手取り金額、年金や児童扶養手当などの給付金の受給の有無及びその金額など、一切の財産に関する事項を調査することが法で許されているし、簡単にこれらの情報を取得することができる。

もっとも日本国憲法で生存権(憲法25条)が認められている趣旨から、税金を滞納していたとしても、滞納者の最低限度の生活が脅かされかねない各種の財産については、差押えが禁止される(国税徴収法75条~78条)。給与については全額これを差し押えることは許されないし、いわゆる年金も同様である。児童手当や児童扶養手当、生活保護費のような各種の給付についても、特別法(児童手当法、児童扶養手当法、生活保護法ほか)においてその受給権の差押えが禁じられている。

では、銀行に振り込まれた後に、これらを預金として差し押えることが許されるか。この点、最高裁平成10年2月10日判決は、金融機関による相殺の事案において、差押禁止債権が受給者の預金口座に振り込まれ預金債権となると差押禁止債権としての属性は承継しない(それゆえに相殺できる)という原審の判断を是認した。この判例は、差押禁止財産を銀行預金として差し押えることができるか否かについて正面から判断したものではない。しかし前橋市は、全く事案の異なるこの判例をいわば盾に、給与であろうと児童手当であろうと児童扶養手当であろうと、銀行口座に振り込まれさえすればその瞬間に差押禁止財産ではなくなり銀行預金に転化すると解釈して、公然と差押禁止財産の銀行預金としての差押えを行ってきたのである。

この種の差押えは、不動産や自動車のような動産の差押えと異なり、公売という換価手続きを省略できるため手続きが簡便であるばかりか、差し押えた金銭を滞納税に即時に充当できるという点で、自治体にとって大きな利点を有する。前橋市の8,000件を超える財産差押えのうち、7,000件以上が債権の差押えであり、その中には給与や売掛金だけでなく、このような脱法行為的な預金口座の差押えも数多く含まれる。

しかしながら、こういったいわば「脱法行為的差押え」をすべて是認してしまえば、生存権(憲法25条)の保障の下で差押禁止財産を定めた法の趣旨が全くの骨抜きになり、最低限度の生活さえ行政権によって脅かされてしまう。さすがに司法権もかかる事態を黙認し続けることはなく、銀行口座に振り込まれた児童手当を、振込みから9分後に鳥取県がそれと認識して差し押えた事案について、鳥取県による差押えを違法と判断した(鳥取地裁平成25年3月29日判決、広島高裁松江支部平成25年11月27日判決)。

特に上記広島高裁松江支部判決は、前記最高裁判決に触れながらも、預金債権の大部分が児童手当の振込みによって形成されたものであり、しかも児童手当が振り込まれた直後の時点では、それに相当する金額が差押禁止財産の属性を失っていないことを正面から認め、そのうえで、行政庁がそれと認識したうえで差し押さえた児童手当相当額分を、実質的には差押禁止財産を差し押えたと明確に判断して、これを違法と断じたものである。

したがって、私が先ほど「脱法行為的差押え」と呼んだ事案は、正しくは「違法な差押え」と呼ぶべきであることを忘れてはならない。

弱者に追い打ちをかける前橋市

問題はこれだけではない。生命保険の強制解約も目に余る。市税を滞納している市民が生命保険に加入しており、解約返戻金がある場合には、前橋市が解約返戻金請求権を差し押さえて直接取立権(国税徴収法67条)を行使するために、契約者の意思によらずに生命保険契約を一方的に解約することができるのである(最高裁平成11年9月9日判決参照)。

しかし、生命保険契約の内容が、資金運用や蓄財を主目的にする場合と、生活保障を主目的にする場合とを何ら区別せずに、解約返戻金があるという理由だけで強制解約に及ぶことはあまりに乱暴すぎる。この点、国税徴収法基本通達も、生命保険契約の解約については、解約返戻金によって満足を得ようとする差押債権者の利益と、保険契約者及び保険金受取人の不利益とを比較衡量したうえで、慎重にこれを決すべきことが規定されている(国税徴収法基本通達67条関係の6)。もっとも、前橋市はこういった通達を特に参照しているわけではない。

また、不動産の任意売却妨害も見逃すことができない。これは前橋市内の不動産業者なら知らぬ者のいない問題である。市税を滞納した市民が不動産を所有する場合、その不動産には前橋市名義で差押えの登記がなされる。そして前橋市は、延滞金まで含めて滞納税を全額支払わない限り絶対に差押えを解除しない。そのため、不動産業者が仲介して前橋市の差押えが入った不動産を任意売却しようとした場合、買い手がついて他の担保権者が担保解除に同意したとしても、ひとり前橋市だけが差押えの解除に同意せず、結局売買が成立せずに裁判所による強制競売となってしまう例が少なくない。先にあげたCさんの例がこれにあたる。国税徴収法では無益な差押えは禁じられており(国税徴収法48条)、かかる差押えは解除しなければならない(同79条1項2号)し、さらには一部の納付によって差押えの解除も可能である(同79条2項1号)。だが、前橋市はこういった条文が存在することを全く無視しているかのようである。その結果、裁判所による低廉な価額の強制競売となって前橋市に何ら納税がなされないだけでなく、市民の滞納税の負担も全く解消されず、不動産を失った市民がなおも重い税負担に悩まされることになる。

さらに近年、景気の低迷や雇用不安、低年金等を原因として貧困が社会問題化し、生活保護受給者が激増している。もっとも前橋市では、単にこれらの原因だけで生活保護に至るわけではないようだ。滞納した市税の支払いが困難なゆえに生活保護の受給を検討せざるを得なくなった例すらある。

平成24年に出会ったDさん。現在71歳になる。Dさんは50歳代から60歳代にかけて職を転々としたため,前橋市に対して80万円近く市税を滞納してしまった。彼は65歳になって年金を受給するようになったが、前橋市は年金収入しかない彼に対して延々と滞納税の納付を請求し、年金の一部を差し押え続けてきた(国税徴収法77条参照)。彼は、長年患っている持病の糖尿病により、ここ2年ほど週に3回人工透析を受けている。昨年、彼は体調をさらに悪化させ、医療費の支出が多額になった結果、アパートの家賃を滞納したばかりか、生活費も不足することとなってしまった。私は今後の彼の生活を考え、生活保護の受給を勧めた。Dさんの年金受給額は生活保護水準を若干上回っているが、生活保護を受給すれば、少なくとも医療費は負担せずに済む(医療扶助 生活保護法15条、同34条)し、今後発生する税金についても負担を免れる(生活保護法57条)からである。前橋市は、年金受給者であっても支給額が生活保護水準を若干でも上回っていれば、超過分を差し押さえる。それゆえ、いくらかでも医療費等が過大になるや否や、生活保護の受給を検討せざるを得ない生活状況に陥るのである。前橋市は、群馬県の全市の中で最も生活保護受給率が高いが、それも当然のことであろう。

いや、仮に生活保護を受けていたとしても、前橋市では過去の滞納税の納付まで強硬に迫られる。昨年出会ったEさん。腰部のヘルニア等で大工仕事ができなくなり、2年以上前から生活保護を受けている。彼は自営業時代に多額の負債を抱え、その返済に追われたこともあって国民年金の支払いもできず、市税の滞納も100万円以上に及んだ。自己破産を経て、生活保護を受給し始めてから1年以上経過した昨年8月、前橋市役所から1通の封書が郵送されてきた。封を開けると、そこには「催告書」という文書があり、こんな文章が記載されていたのである。

「あなたの市税が滞納となっています。つきましては下記期日までに滞納税全額を納付して下さい。期日までに納付又は連絡がない場合は、国税徴収法の定めにより財産の差押えを執行することとなります」。

Eさんは驚いて前橋市役所収納課に向かった。そこで彼は、前橋市職員から過去に滞納した市税の納付を強硬に求められ、生活保護費から6,000円を納付したのである。私は今後への不安から憔悴していた彼に対して、生活保護法では保護費に課税されることも、差押えを受けることもないと定められていること(同法57条、58条)、そして過去の滞納税まで消滅するわけではないものの、多くの市町村では滞納処分の執行停止(地方税法15条の7第1項)をして市税の納付を請求しないことを説明した。私は、文書により既に支払った6000円の返還(還付)と過去の滞納市税の執行停止を求めたが、前橋市はこれに応じることはなかった。

前橋市では、こういった財産差押えばかりを優先した異常な徴税が市民の間でも問題となり、マスコミも何度かこの市税徴収の過酷さを報道した(最近では東京新聞平成25年9月19日号、朝日新聞平成26年7月14日号、同平成26年10月20日号)。このような状況を受けて、平成24年には、現職の山本龍氏が「問答無用の差押えの廃止」を公約に掲げて市長選に出馬し、高木政夫氏を抑えて当選を果たした。だが、山本氏は市長に就任するや公然と公約を翻し、従来通りの過剰な財産差押え路線を踏襲して現在に至っている。なお、群馬司法書士会も、過剰な差押えからの転換を目指す(はずだった)山本氏の就任に際し、市長及び収納課職員との懇談を申し入れたが、市側はこの申し入れを拒んでいる。しかもその際、担当職員は「いまさら司法書士会とお話しすることは何もありません」などと平然と言い放ったという。

「前橋市方式」といかに闘うべきか

それでは、こういった市民の生存権を脅かす租税の徴収に対して、われわれはいかにして戦い、そして市民を支援するべきか。

第1に、地方税法で規定された税の滞納に対する対応策を熟知して、これを利用することである。地方税法では、①納税の猶予(地方税法15条~15条の4)②換価の猶予(地方税法15条の5~15条の6)③滞納処分の停止(地方税法15条の7~15条の8)の各制度が規定されている。これらの各要件についてここでは詳説しないが、特に③滞納処分の停止については、納税者に滞納処分となる財産がないか、滞納処分によって滞納者の生活を著しく窮迫させるおそれがある場合に差押えを停止し、さらにこれが3年継続したときに納税義務を消滅させる制度である。先にあげたEさんのような生活保護受給者は、いうまでもなくこれに該当して即座に滞納処分を停止すべき事案であるし、厚生労働省も同様の見解をとる(平成24年3月27日付大阪府福祉部国民健康保険課長「生活保護世帯からの国民健康保険料(税)の徴収等について」参照)。生活困窮者の税滞納については、この滞納処分の停止を活用するよう、各自治体に対して文書で積極的に申し入れる必要がある。

第2に、社会保障に関する各種の制度について理解を深め、積極的に利用することである。例えば、先にあげたDさんの事例では、医療費の自己負担額を抑えるために、限度額適用認定証の取得、無料低額診療事業を実施する医療機関の利用、そして国保法44条による一部負担金の減免といった方法を利用することが考えられる。これに加え、差押えによって財産を失った方には生活保護の申請を、さらには本年4月から施行された生活困窮者自立支援法に基づき、自立支援相談の窓口から庁内各部署の協力を求めることによる対応も十分可能である。実際、Dさんはそれまで2カ月に1度支給される厚生年金から2万円を前橋市によって差し引かれていたが、本年4月に自立支援相談窓口に同行し、担当職員が収納課職員と交渉した結果、1回の差押え金額が1万円に減額された。本来、滞納処分の停止がされるべき事例ではあることからすれば解決とまでは言い難いだろうが、それでも1歩前進したと評価できる事例だと考えている。

第3に、先に取り上げた広島高裁松江支部判決及び鳥取地裁判決を積極的に利用して、差押えの効力を法的に争うことである。銀行口座に振り込まれた児童手当を差押えた鳥取県の行為を違法と断じたこの上記判決の衝撃は大きく、鳥取県ではこの判決を受けて県が作成した『滞納整理マニュアル』を即座に改訂したほどである。全国の各自治体も、この鳥取事件判決を受けて同様の動きを見せている。また、全国でこの鳥取事件判決を示したうえで自治体に差し押えられた児童手当を解除させる事例が数多く報告されており、前橋市も平成26年8月28日、かつて前橋市に在住し、現在は高崎市で暮らす男性の求めに応じて、銀行口座に振り込まれた児童手当の差押えを解除している。

もっとも、前橋市や一部の自治体は、鳥取事件を児童手当に限った特殊な事例だとして、他の差押禁止財産、特に銀行口座に振り込まれた給与の全額差押えについては、いまだに頻繁に行なっている。鳥取事件の、特に高裁判決は差押え禁止財産の趣旨を強調して、鳥取県による差押を明確に違法と断じている。この趣旨は他の差押え禁止財産にも当然に当てはまるものであり、広く生かされる判断であることは間違いない。近い将来、給与に対する全額差押えを違法とする判決を獲得することを目指す必要がある。

以上に加え、いわゆる不動産の任意売却妨害についても、国税徴収法48条及び同法79条1項に反する違法行為として、法廷で十分争うことが可能である。最近の下級審判決では、死亡した税金滞納者の不動産を静岡県浜松市が差し押さえ続けたため、清算業務が妨害されたとして、相続財産管理人を務める司法書士が市に損害賠償を求めた訴訟で、静岡地裁浜松支部は浜松市に110万円の支払を命じている(静岡地裁浜松支部平成26.9.8判決。なお控訴中)。

「前橋市」は今後、全国各地に現れる

最近、この「前橋市問題」を人前で話す機会があり、私が前橋市の市税徴収の異常さ、過酷さを自分なりに熱弁したところ、出席された方から「先生はなぜ前橋市ばかり悪者にするんですか。税金を払うのは当たり前のことでしょう。前橋市の職員はそれだけ熱心に仕事をしているってことなんじゃないですか」との、いくぶん怒り込めた反論があった。

もちろん、日本国民に納税の義務があることはだれも否定しない(憲法30条)。各種社会保障制度や住民サービスのための原資を確保するために、租税を充分に徴収する必要性があることも勿論である。しかしながら、ここにあげた各事例にみるように、租税徴収の名のもとに、生存権を脅かすまでに住民を追い詰めることが許されていいはずがない。市税を滞納するに至った前橋市の住民たちの多くは、日本経済の「失われた20年」の中で、リストラや給与の引き下げ、事業の縮小や廃止などの憂き目に遭いながらも必死に格闘し、いわば満身創痍の状態にある。このような住民に対して違法の疑いある強権的な差押えを連発し、その生活再建を妨害し、ましてや生活保護を受けざるを得なくなるまで追い詰めるというのは、全く本末転倒ではないか。租税徴収権を有し、自力執行権まで認められる地方自治体には、その行使について一定の謙抑性が要求されてしかるべきであるし、適正手続きの保障(憲法31条)の趣旨からも、徴収において住民の生存権に配慮した一定のルールを確立すべきと考える。

以上が、群馬県前橋市の異常なまでの市税徴収の実態である。前橋市に限らず、シャッター通りに象徴される地方都市の空洞化と人口の減少、及び市民の高齢化は、この国においてすでに顕著な現象といえる。地方経済の疲弊は自治体の税収低下となって現れ、有効な景気回復策も打ち出せないまま、ひいては強硬な租税の徴収という形で市民生活の圧迫を招く。いま前橋市で起きていることは、今後日本中のいかなる都市であっても起き得ることなのである。そのことを強調して、本稿の締め括りとしておく。